生きるための自由研究

脱・引きこもりできそうにない半引きこもりです。

引きこもり問題は家父長制が生み出している

日本における引きこもり問題は、家父長制に基づく家族主義的な社会保障制度によって生じていることを指摘しておきたい。

 

「引きこもり」が問題とされるのは、以下の2つにおいてである。

 

①金の供給源がないこと

②居場所がないこと

  

※今回は①を取り上げる、②についてはアイデンティティの確立との関連で述べられるべきことであり、おいおい整理したい。

 

 

●働けない者の面倒を国は家族に押し付ける

 

働けない者に対する経済的支援は国に先立ち家族がおこなわなければならないとされており(民法における扶養義務)、家族に扶養能力が認められると生活保護は支給されない。障害年金が受け取れなければ、社会保障の網の目から漏れて金の供給源がなくなってしまう。

 

 

厚生労働省による生活保護制度の説明にも以下のように記されている。

 

生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提でありまた、扶養義務者の扶養は、生活保護法による保護に優先します。

 

www.mhlw.go.jp

 

 

日本では福祉の機能を家族に過度に依存しすぎである。障害者、高齢者、ニートや引きこもりなど、その福祉(世話)を家族にばかり押し付けてきた。家族主義を都合のよいイデオロギーとして、国家は生産性のない者に対する福祉を回避してきたのだ。

 

引きこもりでも「家族に養ってもらっているから問題ないでしょう」と言われるが、私が問題としてるのは今の家族単位に基づく社会保障のあり方です。引きこもりなど経済困窮者の支援(福祉)を家族に押し付け、国が支援にノータッチであることを批判している。

 

 

●引きこもり問題は家父長制により生まれている

 

引きこもり問題で何が批判のターゲットにされるべきかというと家父長制である。

 

日本の税制や社会保障は家族単位でなされている。単位となっている家族とは、「男女のペアとその間の子」である。

 

「男女のペアとその間の子」を標準家族として制度的特権を与えている家族主義的な現行制度は、家父長的(女性抑圧的)である。

 

年金の第3号被保険者制度や「103万円の壁」と呼ばれる税制も、稼ぐ夫とその経済力に依存する妻という構造を前提としたものである。

 

戦後のサラリーマン(年功制)という働き方は、長時間働く男性とそれを支える主婦というジェンダー秩序を生み出し、主婦パートの低賃金や103万円の壁によって、女性の経済的自立は阻害され、女性は男性に経済的に従属する立場に置かれる。

 

 

伊田広行『シングル単位の恋愛・家族論』では、以下のように指摘される。

結局、職場における年功システム(年功序列賃金、終身雇用、家族賃金)は、家族単位で考えている制度で、男性を会社人間にする一方、女性を中核ルートから排除し、女性を二流の労働者(パート、補助職、一般職)とする制度である(p.13)。

 

男女のどちらが稼ぎ手になるかは制度では決められてないが、男女の賃金格差は大きく【注1】、男性が稼ぎ手となる方が世帯収入が有利となる。男性優位の経済構造が男性が稼ぎ手となるようプッシュしているのである。

 

扶養義務により、女性だけでなく、経済的自立ができない者も家族の中で経済力がある者(=稼ぎ手男性)に依存することになり、従属的な立場に置かれてしまう(養われていることは、それだけで負い目を感じさせる)。

 

このように、経済的弱者が家族の中の男性稼ぎ手に養われ依存することで、ますます稼ぎ手男性の立場は強いものになる。現在の家族主義的な社会保障のあり方は男性稼ぎ手の権力を増長する仕組みになっていることから家父長的であると言えるのである。

 

【注1】

男女の賃金格差(男性を100とした場合)は73.4となっている(賃金構造基本統計調査、2017)。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2017/dl/01.pdf

 

 

 

●家族主義が依存的な弱者を生み出し、差別を助長している

 

社会の最小単位が家族となり男女の二人がペアである事が標準とされることにより、ペアにならず一人のままでは不完全な状態であるという意識が生まれる。

 

男女で一つの単位とする家族主義的な発想こそ、差別を生み出しているといえる。家族主義が強いと、未婚者やシングルの人が「半端者」と見られる。

 

家族主義は、経済的自立ができず家族をつくれない者をも差別する。

 

経済的自立ができない障害者、引きこもり、無業者などは「半人前」と言われて劣った者とされる。

ある属性に属する人を劣ったものと見なし、冷遇することは差別である。「半端者」「半人前」という言葉には差別が含意されている。

 

日本では民法における家族の扶養義務のため、経済困窮者(経済的自立できない者)は家族に支えてもらうことになる。他人に養ってもらってる者は「半人前」と見られてしまう。他人の経済に依存することによって、「自立」ができず、従属的な地位に置かれてしまう。

 

このように、家父長的な家族主義的制度が、引きもりなど「半人前」と呼ばれる依存的弱者を生み出し、差別を作っていると言える。

 

家父長制に基づく家族主義的な社会保障システムにより、経済的自立ができない者への金銭支援がなく、福祉の空白が生まれている。引きこもりの人の「自立」のためには福祉が必要である。


家族主義は男女を一つの単位する発想であり、男女の二分法を前提として成り立っている。経済構造と制度が相まって性別役割が生み出され、女性(経済的弱者)を男性に従属させることで、性差別が維持・強化されていることも指摘した。

 

差別を生み出す男女のジェンダー二分法を乗り越えるためにも、家族主義を見直さなければならない。

 

 

 

※引きこもり問題が家族主義・家父長制に基づくことについては、伊田広行氏の『シングル単位の社会論』を読んだことで得た知見から導き出した結論です。今後の引きこもり問題への議論の切り口となってほしいところです。

 

 

 

 

 

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