生きるための自由研究

脱・引きこもりできそうにない半引きこもりです。

生存権の保障【労働システムの脱・家族主義】

1.日本の最低賃金生存権を保障しない水準

 

 国連から2013年に日本の最低賃金は「最低生存水準および生活保護水準を下回っている」と勧告されている。2019年度における最低賃金は東京が1013円、最低は沖縄など790円である。全国加重平均は901円となっている。

 

厚生労働省:地域別最低賃金の全国一覧】

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/

 

 全労連が2017年におこなった最低生活費の調査によると、25歳単身者がいわゆる普通の暮らしをするには税込み月収で22万〜24万円が必要であるという。最低生活費は都市部と地方であまり差はない(地方は家賃が安いが、自家用車が必要であり冬の暖房費などがかさむ)。この最低生活費を維持するには173.8時間労働(参考:8時間×22日=176時間)だと時給1300〜1400円相当の賃金が必要だという。つまり、現行の最低賃金は最低生活費(生存権)すらも保障しない水準となっている。また、都市と地方で最低生活費があまり変わらないにもかかわらず、最低賃金に大きな差があることで都市と地方の生活格差を生んでいる。

 

www.rengo-news-agency.com

 

 

2.非正規労働者の賃金が低いのは世帯主男性に養ってもらうことを前提とした水準に設定されているから

 

 日本の最低賃金はなぜ生存権を保障しない水準に設定されているのか。それは、日本の賃金体系が家族単位の発想から設計されていることが大きな原因である。パートやアルバイトなど非正規労働者の賃金が最賃レベルで低水準なのは世帯主(男性)に扶養してもらうことを前提としているからである。一方、世帯主となる者は年功制度の正規雇用として家族を養う水準の比較的高額の賃金が支給される(最近は、正規雇用者でも手取り10万円台などの「名ばかり正規職」も多くなっているが)。つまり、家族単位の賃金体系のもとでは、正規雇用者である世帯主が家族を扶養する水準の給与を得るが、世帯主に養われる配偶者や子どもは経済的自立することを想定されず低水準の賃金でも構わないということになる。男性に正規労働者(基幹労働者)が多く、女性に非正規労働者(パート、補助的労働)が多いのも、このような「男=養う者、女=養われる者」というジェンダーロールが根強いためである。

 

 

3.家族賃金制は性差別を生んでいる

 

 年功制度のもとでは終身雇用が前提とされていて勤続年数に応じて賃金は上昇する。しかし、その上昇の仕方も社内でのポジション如何で変わるので、昇進のために常に出世競争をしなければいけない。社内で昇進するためには上司から評価を得なければいかず、会社への貢献度を示すために長時間労働を厭わなかったり、上司や同僚との関係を良好に保つために酒や食事などの付き合いをするなど、一日の大半の時間を仕事と仕事上の付き合いに費やす会社人間となる。このような長時間労働が可能になるのは、家事・育児をすべてしてくれる配偶者(妻)がいるからである。つまり、日本企業の年功制度自体が「男=仕事人間/女=主婦」というジェンダーロールをもとにつくられており、男性を経済的優位にして女性を無償労働や低賃金労働においやる性差別を生み出している。一家の大黒柱となる男性は家族を養わなければならず、会社からクビにならないよう会社に尽くさなければならない。残業や転勤にも応じなければならない。男性が結婚し、子どもができると、住宅費や教育費が増えてくるので、それに合わせて昇給がおこなわれるのが年功システムである。若いうちは低水準の給料に抑えるが、年をとり昇進すると相対的に高賃金がもらえ退職金ももらえる。このように将来の高い利得をエサとして労働者を企業に縛り付けておくのが家族主義に基づく日本の年功システムなのである。

 

*日本型雇用システムと性差別の関係については前回のブログ記事を参照。

 

 

nagne929.hatenablog.com

 

 

4.年功制に基づく各種手当ても家族単位となっている

 

 扶養すべき家族がいる者に加算する「家族手当、扶養手当」といった手当も、同一労働をしているのにシングルには不利になっている。住宅手当も世帯主に多く支払われたり、既婚者が優遇される傾向にある。社宅が借りられるのも世帯主に限られており収入の低い女性はアクセスができない。企業が福祉の機能を果たしており、それも標準家族(男女のカップルとその間の子)をつくる者だけが恩恵を得られるものとなっている。本来は国家が保障すべき福祉が企業に丸投げされている状態でもある。企業が正規労働者を削減し非正規労働者を増やすことは、労働者に家族をつくるなと言っているのに等しい。このような新自由主義による雇用崩壊を放置したまま、結婚して子どもを産み育てよと促しても無理なのである。

 

 

5.賃金体系を年功システム(家族単位)から同一価値労働同一賃金システム(個人単位)へ

 

 長時間労働が家族単位の発想に基づく働かせ方そのものである。長時間労働者は家事・育児をする暇がないので、配偶者にそれらを任せなければならず、家事提供者としての配偶者を主婦やパート主婦という経済的に弱い立場においやっている。主婦パートやアルバイトがあまりにも低賃金であり生存権が保障されていないため、彼・彼女らを扶養する世帯主が多く稼がなければならず長時間労働を迫られるという構図がある。パートやアルバイトなど非正規雇用者も経済的自立できるように最低賃金を上げることが世帯主の労働時間短縮にもつながり、家事や育児などの負担の平等化にもつながりジェンダーフリーに近づくことになる。

 

 さらに、正規雇用と非正規雇用の間の差別をなくすためにも、年功=家族賃金制度(職務とは関係なく家族を養う水準の賃金を与える)に基づく賃金システムを改め、同一価値労働同一賃金(実際の仕事の質や量に見合った賃金)にすべきである。パートやアルバイトを「労働時間の短い正規労働者」とみなす方向にする。賃金を上げ短時間労働でも経済的自立ができるようにすべきである。経済的自立ができる水準にするためには賃金体系が家族単位ではなく個人単位とならなければならない。生存権の保障のためには労働システムにおける脱・家族主義を進めなければいけない。

 

 

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このブログにおける労働システムの脱・家族主義(=個人単位化)については、伊田広之さんの『シングル単位の社会論』(世界思想社)や『はじめて学ぶジェンダー論』(大月書店)を参考にしました。