生きるための自由研究

脱・引きこもりできそうにない半引きこもりです。

「いま・ここ」の哲学

 

 

 ある日、朝の仕事がおわり河原でぼんやり歩いていた。そしたらカラシナをみつけた。思いがけない春の訪れを感じた。あてもなくブラブラして繁華街に向かった。そこでは、「コロナは嘘だ」と大声で集会してる連中がいた。通りを挟んでビッグイシューを販売しているおっちゃんがいた。おっちゃんに話しけてみた。「コロナは嘘やと言ってる人たち、うるさいですよね。営業妨害やって言いにいきましょうよ〜」と冗談まじりで話しかけてみた。ビッグイシューを買ってから、わたしも路上で生活保障のことをアピールしていると言った。「おっちゃん、僕、女装してんねんけど」と言って女装の写真を見せたら、ウワーっとおっちゃんが驚いてウケた!ひとりで路上アピールしていると通りがかりの人からお小遣いをもらった話とかをしたら、「おお。じゃあ、ワシも女装しよかな〜」とおっちゃんも話を面白がってくれた。アイスブレイキングである。

 

 ビッグイシューは路上生活者の自立のためのビジネスなので、話題としてはマジメな社会問題としてオカタイものだ。おっちゃんたちと交流するにしても、どうしても話題は貧困問題などマジメな話を中心とした表面的なものになってしまいがちなのではないか。でも、わたしが思い切って、自分のやってる女装をネタにして話してみたら、笑いのモードになった。気持ちのゆるみ(スキ)が生まれたと思う。「変な人」であることを自己開示してオフザケがしやすくなると、相手との境界線も超えやすくなる。このようにスキを見せる行為も、生産性からズレる実践だと思う。スキをつくるのも意識しないとやりにくい。

 

◉ 河原でみつけたカラシナ。パスタにしようかな。このように偶然に野草を見つけるのも小さな非日常である。

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 無駄に見えることやズレることをするのは、生産性の論理から外れる行為である。人はデフォルトで生産性のある行為をしがちだ。わたしたちは観念や行動パターン(ハビトゥス)までも生産性の論理に支配されている。知らず知らずのうちに役に立つかどうかで判断したり、常識や他者目線で行動してしまう。気を抜くと主流に流され、無駄なことをしなくなる。無駄にみえることやズレることをおこなうことは主流に逆らい自分自身を拠り所にしようとする行為だ。自分を律することで主体的になり、それが「自立」になるのではないだろうか。小さなことだが、普段なら電車で行く所を歩いていく。そうすると、道端や空き地で野草をみつけたり、知らない人と会話になったりする。スピンアウトすることで、予期せぬ偶然がおこる。「誤配」である。このように脇道にそれたり寄り道をするのも意識的にやらないとできない。さらに、野草や何かおもしろいものがないか意識を払うことや、誰かと話そうとするのも意識しないとできない。また、素朴なものや何げない事を楽しむ技能も必要だ。さっきのビッグイシューのおっちゃんとの出会いも、ある勉強会に行く途中に街をブラブラしてたから起こった。

 

 

 人は常に外部からの影響や刺激の中にいて、みずからの意志だけで行為をしているわけではない。スピノザは、自由であるとは能動的になることであると言ったそうだ(國分、p.110)。能動であるとは、自ら自身が原因となって何かをなすことをいう。自分の力がうまく表現できる行為をつくるだすことが、自由になるために一番大切だという。人には、生産性の論理に従った発想や行動をとる慣習(=コナトゥス)が染み込んでいる。自分自身の力の表現というものは、そのような主流の流れから自由になれたところでこそ発揮されるのではないか。予定調和でない非日常においてこそ「現れ」が生まれる。それが、誰のものとも代えがたいオリジナルな経験となり自分のアイデンティティの核にもなる。小さな思い出をつくっていく。

 

 

 見返りを求めたり、将来のことを念頭に置いた考えや行動は、目の前の現実に対峙するのではなく先のことに基づいてしかモノゴトを判断しなくなる。それは、目の前のことをおろそかにして「いま・ここ」を疎外する。それが有用性の発想なのだろう。有用性に押し込められない「過剰」が真に自由になるためのカギではないか。街をブラブラして、何かを発見したり偶然出会った人と目的のない会話を楽しむ。何か目的があるから話をするのではなくて、ただ話すことだけを目的とする。目の前に現れた現実や予想外のことを楽しもうという姿勢をもつ。目の前のことに自分なりに関わろうとすると、有用性の枠からあふれた非日常が立ち現われ「祭り」となる。「いま・ここ」の哲学なのだと言いたい。

 

 

【参考文献】

國分功一郎、2020、『はじめてのスピノザ講談社現代新書