生きるための自由研究

脱・引きこもりできそうにない半引きこもりです。

社会のすみっこを居場所にする

 

 わたしが「引きこもりアイドル」を名乗って6ヶ月がたった。路上で、看板を立てて知らない人と話したり、投げ銭をもらったりしている。わたしとしては、自宅以外に引きこもれる場所を外につくっている感覚だ。路上に一時的なテリトリーをつくって、そこに引きこもり、たまに通りがかった人が絡んでくれて、孤独を紛らわすというやり方である。蜘蛛の巣をはって、誰かが来るのを待っている感じだ。

 

 最近は、山でとった野草を路上で人にあげたり、いらないモノや食べ物をあげて、お気持ちとして投げ銭をもらうこともある。ただ話し相手になったり、何もしなくてもお金や食べ物をもらうこともある(まぁ、物乞いです・・)。誰かから一時的にでも必要とされた経験、お金や食べ物をもらった経験は、また路上に出ていこうという動機になり、徐々に外でも居場所を増やしていく。街の片隅で出会った人や、たまに会う知人と、その場で一時的な社会(=居場所)をつくる。これを、しょぼい社会参加と呼びたい。「すみっこ暮らし」の実践だ。「すみっこの豊かさ」が伝わればと思う。

 

 

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【会った人】

 

 

 

◉ 海外放浪後に生活保護で暮らすおっちゃんとの交流

 

 今年2月の路上一揆で出会ったおっちゃんが、わたしの路上の居場所をよく通りがかって話をする。生活保護関連の話が多い。おっちゃんもあまり働かず海外放浪を繰り返し、貯金がないから老後は生活保護で暮らしている。わたしのような働けない(半)引きこもりの問題や、社会に適合できない人の事情をよく理解している。国民年金を払っても老後生活できるレベルの額をもらえないということから、「年金は払わずに自己投資に当てたらいい」とよくアドバイスを受ける。笑

 

◉ ギャルに絡まれる

 

 前に若いギャルの女の子に、女装姿がおもしろいから絡まれた。よく、わたしのいるところを通りがかって立ち話をする。わたしが何をしても「かわいいやん〜」と言われて、写真を撮られインスタに載せられる。街で男に追いかけられてウザかったという他愛もない話をして帰っていくこともある。マブダチ認定されている。笑

 

◉ 東大で火炎瓶500本投げたおっちゃんと話した

 

 扇町公園生存権のことをアピールしていたら、60年安保闘争学生運動をしていたおっちゃんに話しかけられた。東大の安田講堂で機動隊に火炎瓶を500本投げたそうだ。でも、機動隊にボコボコにされて3ヶ月入院してしまったそうだ。不動産関連の仕事をしていて、生活保護申請を手伝うこともあるという。「火炎瓶投げるの楽しくなかったですか?」と聞いたら、「楽しかった!」と嬉しそうにおっちゃんは答えた。むかしは、岸信介日米安保という大きな敵がいて、正当な理由をもってみんなが火炎瓶を投げて力を見せつけることができた。今は、火炎瓶を投げるなど外に力を向ける事がしにくいから、生きづらさを解消しようにも力の向け場がないのだと思う。何らかのやり方で自分の欲望や力を表現できて、「心の中の火炎瓶」を投げられることが生きづらさの緩和になるのではと思うんだけどね。火炎瓶の話からドゥルーズ的な欲望論が思い浮かんだ。

 

◉ 京大生に経済学の話をして投げ銭をもらった

 

 夜の三条大橋で「引きこもりアイドル」の看板を出してグダグダしてたら、京大生の人たちに話しかけられ、少しおしゃべりした。経済学部の学生だというので、投げ銭のことをゲーム理論の視点から話してみたら納得してもらえた。簡単に言うと、自分が困った時に知らない人から助けてもらえるなという「信頼」があれば、人は物乞いなどに気軽に投げ銭をするようになるという話だ。自分が誰かを助けても損しないという期待がないと、人は誰かを助けたがらない。という話をしたら、京大生から投げ銭をもらえた。笑

 

 

◉ 自転車で日本一周旅行するお姉さんと話した

 

 夜の路上でひとり寂しく立っていて、思い切って少し離れたところにいるお姉さんに「こにゃちは〜」と手招きしてみた。お姉さんは何だろうと応じてくれて、「引きこもりが路上に出て一発カマしてやろうと思ってます」と言ったら、「うちの兄も引きこもりなんですよ」と言われた。お姉さんはこれから自転車で日本を回るそうだ。テントを積んで野宿でいくそう。野宿旅行や歩き旅の話をして盛り上がった。野宿や旅の話ができる人がいて嬉しかった。投げ銭箱を見て、お小遣いももらった。もう、日本一周から帰ってきてるだろうか?

 

◉ わたしの路上活動は自助グループみたいだと言われた

 

 依存症からの回復や生きづらさの問題に関心のある方に声掛けしてもらった。わたしが、「最近はコロナで自助グループもやってないところが多いですね」と言うと、「ここって自助グループみたいやん?」と返事された。路上に突如現れる居場所のようなもの。それを聞いて、路上で気軽に生きづらさや諸々のことを話せる場をつくることが、自分の回復にもなっているのだと気づいた。

 

◉ 若いアーティストの人たちと路上飲みをした

 

 わたしの路上活動は、花やぬいぐるみでカラフルな場であるからか、アート系の人の目について、立ち寄ってもらいやすい。前に通りがかった方が、路上活動に関心をもって、ここで仲間を集めてダベりたいと言われた。芸術関連の若い人たちが集まって、酒を飲みながらワイワイした。絵やイラストが得意で西成でおっちゃんの似顔絵をたくさん描いていた人とも話ができた。悩める大学院生の方ともお話をした(わたしも大学院ドロップアウトとして話ができた)。

 

◉ おっちゃんがウィッグを買ってくれた

 

 路上にいらないウィッグを並べてたら、たまに気になって立ち寄る人がいる。一人のおっちゃんがウィッグが気になって立ち寄った。女装バーによく行っていて、「わしも女装してみたいんや〜」と金髪のウィッグをかぶって気に入ったようだった。いらないウィッグだからタダであげてもいいのだけど、おっちゃんが「これ、いくらなん?」と聞いたので、「お気持ちでお願いします」と言ってみたら、500円ほど投げ銭をくれた。おっちゃんは昼から飲み屋をハシゴしてて、酔っ払ってできあがっていた。おっちゃんに「おっちゃんの行ってる飲み屋は、引きこもりでも歓迎されますか?」と聞いてみたら、「大丈夫や。俺の名前を出せばいい」と自信満々に言ってたんだけど、大丈夫かな?笑

 

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◉ 路上でニャンニャンしてみたら・・・

 

 路上で通りがかった人にニャンニャン言ってみるとどうなるか?やってみると、面白がってくれる人もいる。通りがかった女性にニャンニャンと言ってみたら、振り返って話しかけてくれた。「あなたは、素晴しい。そうやって人を引き止める才能がある」と言われた。カウンセラーをやっている人で、引きこもりの人の話も聞くらしい。わたしがニャンニャンしてる姿を見て、こんなやり方もあるのかとすごく感動したようだ。「そのうち、いい人に出会えるから、出会いをチャンスに変えたらいいよ」と言っていた。でも、引きこもりの生き方がどうなるかは運ゲーである。だから、わけわからんことをやって、予期しないことを手繰り寄せるのもひとつの手かなとも思う。

 

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◉ 海外の方から1000円もらった

 

 8月のはじめに、四条河原町で路上アイドルとして通行人にあいさつしてたら、一人の男性がニッコリ笑って立ち去った。しばらくしたら、戻ってきて話しかけられた。海外の方で、これから寿司を食べに行くそうだ。わたしの投げ銭箱を見て「この箱なに?Donation(寄付)?」と聞かれた。わたしが、「そうです」と答えると、「なんでお金集めてるの?」と聞かれた。わたしは、「I'm poor.(貧乏だから)」と正直に答えた。すると、その人は財布から1000円取り出して手渡した。「これで、寿司食べなよ」と。大変ありがたい。正直に自分にはお金がないんだと言えば、お情けでお金をもらえることもある。金がないのは恥ずかしいことじゃないんだから、堂々と言えばいいんじゃないか。

 

 

◉ 路上のことは路上の人に聞け

 

 路上でどこで仕入れたのかわからないモノを売っているおばちゃんがいた。話してみたら、路上でモノを売っても警察に注意されない場所を教えてもらった。路上のことは路上にいる人に聞けである。むかしは、東京の路上でモノを売っていたけど、石原都政になってから路上で商売ができなくなったという。路上でワイワイするのが楽しかったと言っていた。夜中も路上にいて、みんなで夜通し酒を飲んでるそうだ。商売そのものよりも、路上で仲間とワイワイすることに楽しみを感じているようだ。

 

◉ 通行人からご飯をもらった

 

 ある日の夕方に王将の袋をもったお姉さんが通りがかって、「餃子おいしそうですね。僕も食べたいな〜」と言ってみたら、お姉さんが振り返って餃子をくれた。その後、チャーハンも持ってきてくれた。「いつも食べてるのでどうぞ」と。ありがたい。お腹が空いたら道の人に声をかけるとご飯がもらえるかもしれないぞ。

 

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◉ 留学生とパーティをした

 

 夏に、路上一揆で声をかけてくれて度々でくわす中国からの留学生と河原でチヂミを食べた。通りがかった人とも話した。この留学生からはご飯をよくもらった。わたしの装いや路上パフォーマンスを面白がってくれる。日本人とはご飯を食べて仲良くなったように見えても、その後に会うキッカケがないと連絡が途絶えてしまうという。日本では人と人とが理由なく気軽に会いにくい。日本人のATフィールドの話になった。

 

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◉ マッチングアプリの男性に振られたお姉さんの話を聞いてあげた

 

  ある日の夜に路上にいたら、突然お姉さんに話しかけられた。緊急事態宣言だから注意されるんちゃうかなと思ったのだが、飲み物を渡されて「ちょっと、わたしの話聞いてや」と言われた。マッチングアプリで出会った男性に振られて、話ができる相手を求めていたらしい。こういういかがわしい系の話は、身内には話しにくいから、わたしのような部外者だと話しやすかったのだろう。「どうやったら恋愛できるかな〜」と言われたけど、「人間関係は折り合いつけることじゃないですかね〜」と、社会と折り合いのつけられない半引きこもり人間が答えてみた。

 

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◉ どろぼう市のおっちゃんを見て思ったこと

 

 西成では闇市(どろぼう市)がやられている。早朝に街の一角で日用雑貨や電子機器、眠剤、違法DVDまで不許可で売っていて、多くの人で賑わってる。たまに、商店街で一人でポツンと雑貨やロキソニンを売っている人にも出くわす。はぐれ商人と言えそうだ。この前は、夜中の12時に商店街でおっちゃんが時計やらを売っていた。そのおっちゃんを翌日の朝も見たので、「おっちゃん、寝たん?」と聞いてみた。おっちゃんは商品は売れないけど、通行人に「買って」と声をかけて露天販売をしていた。おっちゃんと話しながら、しばらくその場にいた。すると、知り合いらしいおばちゃんが通りがかって、おっちゃんはお金をねだっていた。すると、おばちゃんは1000円をおっちゃんにあげた。別のおばちゃんは、玉出で買った食べ物をおっちゃんに分けていた。商売よりも人からもらって得るお金やモノの方が多いんじゃないか?通りがかったお兄さんがそのおっちゃんに向かって、「あんた、生活保護も年金ももらって、まだ金稼ぎするんかいや」と笑いながら声をかけていた。みんな顔なじみでおっちゃんのいるところが話し場になった。おっちゃんはなじられつつも街の中に包摂されている。違法だけど、路上で小商いをすることはおっちゃんにとっては街の人と交流する居場所なのかもしれない。

 

 生活保護の問題は、孤立しやすいことである。それは、「負債」関係をつくりにくいからだと言える。人から贈与が禁止されていたり、ちょっとした売り買いも収入申告しなければならず、贈与返礼・売買がやりにくい。もちろん、投げ銭をもらうのもやりにくい(アマギフくらいか?)。人と人とはモノやお金をもらったりあげたり、貸し借り、売り買いなどを介して関係が継続される。生活保護制度は、そういった人と人との関係をつくりにくくしている。

 

 そのおっちゃんをまた街で見かけたので声をかけてみると、闇市で稼げずにメシ代が足りないと言われて、「1000円貸して」とお金をねだられた。1000円わたしたら、「保護費の支給日に返すから、また来てや」と言われた。こういうやり取りからも、ツケができることで関係が続くのだと思った。まあ、おっちゃんは次会った時に1000円借りたことは忘れてると思う。笑

 

※ おっちゃんからはおすそ分けでアイスをもらった。

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◉ 公園で絵が売れた

 

 8月の終わりに扇町公園で、居場所をつくっていたら、チューハイを飲んでるおっちゃんと目があって、話しかけたらわたしの絵に興味をもってくれて500円で買ってもらった。女装した姿がソフトな感じで話しかけやすいと言ってもらえた。また、路上で何かよく分からない事をやってるのも面白がってくれた。おそらく、絵がよいというよりも、わたしの漂わせていたカオスなオーラで買う気分になったのだと思う。非日常は強い。みなさんも、絵を買ってくださいね。笑

 

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おわり:「すみっこ」はみんなに必要

 

 世間の中や身内には話せないことを、すみっこにいる人には話しやすいというのがある。多忙でしんどめな人も、わたしみたいにぼんやりした人に平和なものを感じて話してみたいと思うそうだ。みんな、「すみっこ」が必要なのだ。人が一時的に羽を休め居場所になるのが「すみっこ」なんだと言えそうだ。