前回述べたように、市場経済の中で私たちは労働力という商品として、働き続けるために働いている。サラリーマンの夫に対して主婦は、夫が仕事のために着るYシャツの洗濯や、夫が元気に働けるよう健康的な食事をつくるなど、家事労働として夫の労働をタダで支える。
イリイチの「シャドウ・ワーク」とは賃金労働を支えるための影の部分、つまり無償の労働を指す。主に、サラリーマンの生活を支える家事労働であり、女性に多くが傾斜される。 夫の生産労働を支える、妻の非生産的労働がシャドウ・ワークである。
イリイチは賃金労働も無償労働もひっくるめて「苦界の労働」と呼んだ。
シャドウ・ワークと関連するイリイチの概念で「ヴァナキュラー」というものがある。「ヴァナキュラー」は、自給するもの、自分の家で採ったり作ったりするもの、公有地で手に入れるものを指す。 卵焼き一つ作るには、家のニワトリが産んだ卵を取って、近くの森で拾った薪で火をつけ、近くに生えているツバキから絞った油で焼ける。
しかし、自給が難しい現代社会では、卵を買うためのお金を労働によって得て、スーパーに買いに行く手間を主婦が担うなどヴァナキュラーな部分がシャドウ・ワークへと移行していく。
市場経済の中で生きる私たちは、労働を続けるための労働を強いられ、さらには夫の労働を支えるために主婦の家事など無償の労働を生み出していく。このようなハムスターの歯車のような働き方を、イリイチは「苦界の労働」と呼び現代社会を批判したのである。
- 作者: I.イリイチ,Ivan Illich,玉野井芳郎,栗原彬
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